ノイズ抑制テープに関する考察 |
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1.構造は、アクリル系粘着剤/アルミニウム蒸着不織布/PET支持体の積層構造であると思われる。 2.作用機序は、ノイズに由来する電磁波が、抵抗体(不織布表面のアルミニウム薄膜)にて電流に変換され、電流が抵抗体で抵抗損失し、結果ノイズが消失する、と思われる。 3.アルミニウム蒸着不織布よりも効果は劣るものの、アルミニウム蒸着フィルムであっても、フィルム表面のアルミニウム薄膜が薄くある程度の抵抗を有していれば、ある程度の効果が期待できるかもしれない。 |
詳細 |
現在、NRF-005Tに関して公開されているのは 販売店のオヤイデ電気のサイトと NRF-005Tのベースである旭化成のPULSHUT(パルシャット)®(高機能不織布)のサイト およびこれらのサイトからリンクされているページということになる。 オヤイデ電気「NRF-005T 非磁性体ノイズ抑制テープ」 旭化成「EMC・EMI対策ノイズ抑制シート<パルシャット>|旭化成株式会社 繊維事業」 |
これらのサイトに記載された情報から読み取れるNRF-005Tの構造は、『アクリル系粘着剤/特殊表面加工高機能不織布/PET支持体』の積層構造を基本としていることである。他に何らかの層が挿入されているかも知れないが。 2−2. 「特殊表面加工高機能不織布」が一体何者であるか、ここからは想像していくしかない。 2−2−1. 旭化成のサイトの説明によれば、パルシャットはどうやら抵抗損失によってノイズを熱に変換し抑制しているようである。 抵抗損失があるということは絶縁体ではなく電気が流れる抵抗体であるということになる。 なお、オヤイデ電気のサイトの説明では、「絶縁性が高く、体積抵抗1.0 x 10^12Ω/cm以上、表面抵抗1.0 x 10^12Ω/□以上」 となっていおり、一見すると抵抗体であることと矛盾しているが、 絶縁性については、テープ自体の特性、すなわち表面の粘着剤やPET支持体の数値ということであろう。 2−2−2. パルシャットの写真を見ると明らかに金属光沢があるので、不織布の表面に何らかの金属が付着しているのは間違いなさそうである。 2−3. 以上のキーワードから特許庁のサイトで検索すると関連が深そうな旭化成せんいの特許がヒットする。 「特許第5722608号 ノイズ吸収布帛」 特許請求の範囲は 「布帛の少なくとも一方の面に金属が付着されたノイズ吸収布帛であって、該布帛は、7μm以下の繊維径を有する繊維の層を含み、該金属が付着される前の布帛の厚みは、10〜80μmであり、かつ、該金属が付着される前の布帛の秤量は、7〜150g/m2であり、該付着された金属の厚さは、2〜400nmであり、かつ、該金属が付着された面の表面抵抗率の常用対数値が、0〜4の範囲内にあることを特徴とする、前記ノイズ吸収布帛。 」 となっており、メインの実施例では、PET不織布(一般繊維としてのスパンボンド不織布の層と、極細繊維としてのメルトブロウン不織布の層と、スパンボンド不織布の層とがその順で積層された積層不織布)にアルミニウムを52nm蒸着させ、表面抵抗率3Ω/□となっている。 2−4. パルシャットの「特殊表面加工高機能不織布」の正体は、ある程度の表面抵抗を有するように不織布の表面にアルミニウムを薄く蒸着した 「アルミニウム蒸着不織布」であると思われる。 |
特許第5722608号(旭化成せんい)には 「布帛はその表面が平滑ではないので、金属蒸着法等により、一方向から金属を金属加工した場合には、複数の金属クラスターが形成され、ミクロ的に見ると電気抵抗値が場所によって異なる。従って、外部から進入した電磁波が、一定の導電度及び電気抵抗値を有する金属クラスターにより捕捉され、電流に変換され、次いで電気抵抗により熱エネルギーに変換されることにより、そのノイズ吸収性が発揮される。」 と記載されており、旭化成のサイトでの説明 「旭化成独自の『高機能不織布』に特殊表面加工を施しています。ノイズは抵抗損失により熱に変換されることで抑制されます。」 と大きく矛盾しない。パルシャットのノイズ抑制の作用機序は、特許第5722608号に記載の通りと思われる。 |
特許第5722608号(旭化成せんい)に記載されたメインの『比較例』、 すなわち比較のために用意した従来技術のノイズ抑制材の代表例は、PET不織布の代わりにPETフィルムを用い、 これにアルミニウムを58nm蒸着させた表面抵抗率2.5Ω/□のアルミニウム蒸着フィルムである。 4−1−1. まずは、ループアンテナ法による、空間を伝搬する放射ノイズの抑制効果を見てみる。
図13、図15はメインの実施例(アルミニウム蒸着不織布)の結果であり、 図14、図16はメインの比較例(アルミニウム蒸着フィルム)の結果である。 比較例のアルミニウム蒸着フィルムは、ループアンテナ法による結果では悪く、放射ノイズの抑制効果はなさそうである。 4−1−2. ただ、オヤイデ電気のサイトにあるように、ケーブルやプリント基板に直接貼り付けるような使い方の場合は、 導体を流れる伝導ノイズの抑制効果を見た方がよさそうである。 ということで、マイクロストリップライン法による伝導ノイズの抑制効果を見てみる。
図9はメインの実施例(アルミニウム蒸着不織布)の結果であり、 図10はメインの比較例(アルミニウム蒸着フィルム)の結果である。 比較例は、2GHzまでは実施例と遜色ない結果であるが、2GHzを超えるとだんだん悪くなっている。 4−1−3. フィルム表面にある程度の抵抗を有するようにアルミニウムが薄く蒸着されているアルミニウム蒸着フィルムであれば、2GHz台までの伝導ノイズ抑制材として使えそうな雰囲気である。 4−2. 実は、 金属蒸着フィルムがノイズ抑制材として使えることは以前から知られている。 例えば、特許第5722608号(旭化成せんい)に記載された先行技術文献の一つである特開2006-295101号公報(出願人 信越ポリマー)である。 「特開2006-295101号公報 ノイズ抑制体、配線用部材および多層回路基板」 4−2−1. 特開2006-295101号公報(信越ポリマー)の実施例には、 ポリイミドフィルムにニッケルを52nm蒸着させた表面抵抗率52Ω/□のニッケル蒸着フィルム が記載され、3GHzまでのノイズ抑制効果の評価を行っている。ちなみに、発明を実施するための最良の形態には、 ニッケル以外にもアルミニウム等の他の金属が使用できることも記載されている。 4−2−2. 特開2006-295101号公報(信越ポリマー)には、蒸着によって形成された金属薄膜についても 「ノイズ抑制層は、金属材料を含む層である。例えば、支持体上に、独立した複数のナノメーターレベルの金属材料の金属クラスター(マイクロクラスター)と、これらの間に形成される金属材料の存在しない欠陥とから構成される金属クラスターの集合体である。」 と特許第5722608号(旭化成せんい)と似たようなことが記載されている。 4−2−3. また特開2006-295101号公報(信越ポリマー)の関連公報としては、 ケーブル内部にノイズ抑制材を配置したもの 「特開2012-150980号公報 ケーブル、その接続構造およびモータ駆動制御システム」 基板表面にノイズ抑制材を配置したもの 「特開2014-030067号公報 プリント配線板および光モジュール」 があり、用途もまあパルシャットと同じようなものである。 4−2−4. さらに特開2014-030067号公報(信越ポリマー)には作用機序として 「導体層においては、高周波電流(伝導ノイズ)は表皮効果によって表面に集中して流れることから、側面と上面とが交わる稜部(エッジ部29)に高周波電流が集中して流れる。そのため、エッジ部29から電磁波ノイズが放射され、エッジ部29の周囲に電磁界変動が起きる。この電磁界変動、すなわちエッジ部29から生じる磁束密度の変化が起きると、この磁束密度の変化を妨げるように近傍に配置された抵抗体層34中に渦電流が発生し(電磁誘導の原理)、抵抗損によりエネルギーは消費され、導体層を流れる伝導ノイズは減衰していく(伝導ノイズが抑制される)ものと考えられる。」 とこれもまた特許第5722608号(旭化成せんい)と似たようなことが記載されている。 4−2−5. つまりは、 フィルム表面にある程度の抵抗を有するように金属が薄く蒸着されている金属蒸着フィルムであれば、 2GHz台までの伝導ノイズ抑制材として使える可能性がなんとなく高まってきた。 4−2−6. ただし、特許第5722608号(旭化成せんい)の背景技術欄には 「特許文献3〜6に示すように、フィルム、シート等の平滑面に、磁性材料又は金属材料の層を形成すると、磁性材料又は金属材料の層が平滑になり、磁性材料又は金属材料が本来有する導電性が顕在化し、その大きな導電度により、電磁波が反射される。 」 ※特許文献6は特開2006-295101号公報(信越ポリマー) とあるので、特開2006-295101号公報(信越ポリマー)のような金属蒸着フィルムについては、空間を伝搬する放射ノイズは吸収せずに反射しているかもしれない。 4−3. 市販のアルミニウム蒸着フィルムとしてはセメダイン社の装飾テープ「ラピー」がある。
4−3−1. ラピーの安全データシート(MSDS)を見ると、アクリル系粘着剤付きのアルミニウム蒸着PETフィルムである。 安全データシート「セメダイン ラピー」 4−3−2. もし、フィルム表面にある程度の抵抗を有するようにアルミニウムが薄く蒸着されていれば、 ラピーは2GHz台までの伝導ノイズ抑制材として使える可能性がある、というなんともふざけた仮説が現実味を帯びてくる。 |
5−1. 実は、NRF-005Tが発売される以前に、手持ちのスピーカーケーブルでラピーの効果の有無を確認済みであった。 5−2. YAMAHA NS-1classicsに使用しているスピーカーケーブル全体をラピーで覆いラピー被覆前後で音を聴き比べている。
評価は 「・・・高音はツンツンした感じが弱くなって柔らかい感じになった反面、中音から低音はメリハリが効いた感じになっている・・・」 となっている。 5−3. また、YAMAHA NS-1000Mに使用しているスピーカーケーブルも全体をラピーで覆っている。
評価は 「・・・情報量が増えたようで音がクリアになり、ボーカルや楽器の輪郭がはっきりしている気がする。高域はきれいに響き、低域は厚みが増したような・・・」 となっている。ネット上でのNRF-005Tと似たような評価になっている。 5−4. 今になって思えば、ラピーによる伝導ノイズ抑制効果によってS/N比が向上し、音がクリアになっていたのかもしれない・・・ |
なお、上記のテストの評価はあくまでも個人の感想に過ぎず、 ラピーによる伝導ノイズ抑制効果を保証するものではない。 6−2. また、 ラピーには放射ノイズ抑制効果は期待できなさそうである。むしろ放射ノイズは反射している可能性があり、 ラピーの設置場所によっては機器に悪影響があるかもしれない。 6−3. あと注意が必要なのは、 ホームセンターに売っている補修用のアルミテープ等はアルミ箔を使ったものが多く、伝導ノイズ抑制効果はないと思われることである。 6−4. ちゃんとした効果を求めるなら、オヤイデ電気や旭化成が効果があると謳い、ネット上でのユーザーの評判も良いNRF-005Tを素直に使ったほうがよいと思われる。 ※NRF-005T(パルシャット)については、金属箔のようなシールド材と比較してシールド効果が劣るとの指摘があるようである。金属箔のように電磁波を思いっきり反射するものに比べ、極めて薄い金属蒸着膜がシールド効果に劣るのは当然だと思われる。パルシャットが目指しているのは特許第5722608号(旭化成せんい)の【発明が解決しようとする課題】欄に記載されているように 「本発明は、電磁波が反射されにくく且つノイズ吸収能に優れるノイズ吸収布帛を提供することを課題とする。」 ということにあと思われる。パルシャットは、反射された電磁波ノイズが他の機器に悪さしないように反射を抑えることも考えて設計されているようである。パルシャットのようなノイズ抑制材の効果を語る際には、遮蔽(シールド)と抑制(吸収)とをちゃんと切り分ける必要があるかと思われる。 6−5. 最後に、上記したNRF-005Tの構造・作用機序等も私の想像に過ぎず、実際の構造・作用機序等は異なっているかも知れない。 (作成 2022.12.5) (修正 2023.1.10 2023.3.7) |
追加テスト |
セメダイン社製のラピーは、アース線でも伝導ノイズ抑制効果を発揮できるかどうかを確認してみる。 |
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3−1.使用機器 アナログターンテーブル:TEAC TN-4D プリメインアンプ:YAMAHA A-S2000 オーディオインターフェイス:MOTU M2 PC:Windowsタブレット 電源タップ:ノイズフィルタ付きの自作品 3−2.測定 アナログターンテーブル → プリメインアンプ(PHONO MM) → オーディオインターフェース → PCをケーブルで接続する。 これらの電源を入れただけの(何も再生しない)状態で、PCにおいてWAV形式で信号を取り込む。 |
縦軸のスケール:-60dB 横軸のスケール:0.1秒
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5−1. ターンテーブルとアンプの間、アンプと電源タップの間ともにアース線なしの場合。 耳に聞こえないレベルだが50Hzの周期的な信号(ノイズ?)がみられる。左右のchで強度が違うのが気になるが、これはまた別の要因(オーディオインターフェイスのレベル調整がうまくいっていないなど)だと思われる。 5−2. ターンテーブルとアンプの間のみをラピーなしのアース線で接続し、アンプと電源タップの間はアース線なしの場合。 信号の強度が強くなったというか、あらたな信号が重なっている? アース線が悪い方向に作用している(アース線からノイズが侵入している)のか? 5−3. ターンテーブルとアンプの間、アンプと電源タップの間ともにラピーなしのアース線で接続した場合。 ほんのわずかだが5−2.に比べて信号の強度が下がる。 5−4. ターンテーブルとアンプの間のみをラピー付きのアース線で接続し、アンプと電源タップの間はアース線なしの場合。 ほんのわずかだが5−2.に比べて信号の強度が下がる。5−3.と同程度の信号強度。 5−5. ターンテーブルとアンプの間、アンプと電源タップの間ともにラピー付きのアース線で接続した場合。 5−4.と比べても明らかに信号の強度が下がる。 5−6.まとめ ラピー付きアース線によって、何も再生しない状態でも発生していた余分な信号が減ったので、ラピーが何らかの影響を与えている(アース線から侵入するノイズを抑制している?)ように見える。 アース線がまったくない方がよい結果が出ているように見えること、左右のchで信号の強度が違うことが気になるが、これはまた別の検証が必要か・・・ とりあえず、ラピー付きアース線をターンテーブルとアンプの間と アンプと電源タップの間の両方に取り付けた状態でしばらく様子を見ることに・・・ 肝心の音の方だが、ラピーなしアース線に比べてラピー付きアース線の方が、なんとなく雑味が取れたような気がしないでもない・・・あと、音がよく響くようになった気もする。 (作成 2023.4.9) |